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    (顧問 水谷美紀の食エッセイ)食べたら書きたくなって 17回 ところてんダイバーシティ

    (水谷美紀の食エッセイ)

    水谷美紀の食エッセイ〜食べたら書きたくなって〜 第17回 ところてんダイバーシティ

    (顧問 水谷美紀の食エッセイ)食べたら書きたくなって 17回 ところてんダイバーシティ
    トロント国際映画祭でスタンディングオベーションが起こり、世界中で高評価を得ている話題のインド映画『花嫁はどこへ?』は、良質なコメディに一歩踏み出す女性への応援を込めたエンパワメントムービーだ。インドの屋台メシが心に残る小道具としても使われており、料理好きにもおすすめしたい作品である。

    プロデューサーは世界中で大ヒットしたコメディ映画『きっと、うまくいく』(2009)の主演で知られる、インドを代表する映画俳優兼プロデューサーのアーミル・カーン。審査員をつとめたコンテストで本作の原案となる脚本を発掘した彼は、旧知の仲である『ムンバイ・ダイアリーズ』(2010)のキラン・ラオに監督を依頼。インドではまだ少ない女性監督の先駆者であるキランがメガホンをとったことで、抑圧されてきた女性に対する細やかな目線が加わり、ユーモラスな“花嫁の取り違い物語”だけにとどまらない温かい作品に仕上がっている。

    舞台は2001年のインド。新婚の夫とともに同じ列車に乗り合わせたふたりの花嫁プール(ニターンシー・ゴーエル) とジャヤ(プラティバー・ランター) は、ともに赤いベールで顔を隠していたことからプールの婿ディーパクに取り違えられてしまう。
    これまで慣習に従って生きてきたプールは文字が読めず、夫の住所すらわからない。ジャヤの夫で怪しげな男プラディープ の目を逃れたプールは駅で暮らす少年チョトウに助けられ、女性ひとりで駅の屋台を切り盛りしているマンジュのもとに身を寄せる。

    一方、当時のインドの女性には珍しく高校を出ているジャヤは、貧しいが善良なディーパクの家で客人として過ごすことになる。だが知的で魅力的な反面、身元を偽ったり不審な行動が目立つジャヤは、どこか謎めいている。だがそれには理由があって……。

    ふたりの夫が必死で「本当の花嫁」を探す数日間。それは花嫁ふたりだけでなく、周囲の女性たちにとっても、自分を変える貴重な日々となる。

    **********
    「踊らないインド映画」という表現も色褪せるほど、近年のインド映画はエンターテインメイント色の強い作品だけでなく、じっくり人間を描いたドラマも少なくない。女性に寄り添った名作も増えており、インド人の専業主婦が新しい環境で自信と誇りを取り戻す『マダム・イン・ニューヨーク』(2012)のヒットを記憶している人も多いだろう。本作も古い慣習に盲目的に従ってきた女性と自分らしい人生を望む女性ふたりが、自分らしい生き方を見つける物語だ。

    本作の最大の魅力は登場人物をシンプルながら丁寧に描いていることだろう。特に、出演時間の長さに関係なく登場する女性を誰ひとり脇役扱いしていない点に監督の優しい眼差しを感じる。マンジュ以外の女性全員がインドの古い因習のなかに閉じ込められ、本当の自分を見失っているが、それぞれがほんの少し自分を取り戻し、新しい可能性と出会っていく様子は清々しい。

    ひとりで屋台を営み、プールのメンターとなるマンジュは自立して生きているたくましい女性だが、そんな彼女でさえ過酷な結婚生活を強いられた過去をもっている。無垢なプールに対し、インドの女性はみんな大昔から野心を剥ぎ取られ、男性に服従するために「ちゃんとした女性」という概念の“詐欺(フロード)”に遭っていると説くマンジュの言葉は、日本人である我々にも痛烈につき刺さる。

    共学の高校で1番だったのに進学を許されず結婚させられるジャヤ、夫と子供が喜ぶ料理ばかり作るうちに自分が何を好きかも忘れてしまったディーパクの母、それを当たり前のこととして何十年も生きてきた祖母、良妻賢母となり絵の才能を封印している義姉と、登場する女性の境遇は国を超えて馴染みのあるものばかりだ。我々は彼女たちのなかの誰かに自分を見たり、あるいは自分のよく知る誰かを思い浮かべたりするだろう。そんな女性たちが互いに助け合い、称え合って変わっていく姿をぜひ見届けてほしい。もちろん、そんな彼女たちを支え、後押しする男性たちの誠実さも見逃せない。

    料理好きにとっては、時間は短いものの印象的な屋台のシーンは必見だ。日本でもおなじみのサモサ、インド風の天ぷらである豆の粉を使ったパコラ、インドの代表的なミルク菓子カラカンドなど、マンジュの屋台で出される軽食の数々は、どれも素朴だが出来立てで実においしそうである。現地でなければ体験できないリアルなインドの屋台メシ文化が垣間見えて実に楽しい。

    そしてこの屋台を手伝ったことが、プールを変える。初めて自分の作ったカラカンドが売れ、収入としてマンジュからお金を渡されたとき、プールの顔に驚きと歓喜の表情が浮かぶ。文字も読めず、なんの取り柄もない自分は夫に従って生きるしかないと思い込んでいたプールが、“詐欺(フロード)”から解放された瞬間だ。


    (作品情報)
    花嫁はどこへ?

    10月4日(金)
    新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋他全国公開

    プロデューサー:アーミル・カーン、ジョーティー・デーシュパーンデー
    監督・プロデューサー:キラン・ラオ
    出演:ニターンシー・ゴーエル、プラティバー・ランター
    2024年|インド|ヒンディー語|124分|スコープ|カラー|5.1ch|原題Laapataa Ladies|日本語字幕:福永詩乃
    応援:インド大使館
    配給:松竹
    © Aamir Khan Films LLP 2024
    公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/lostladies/




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