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    (顧問 水谷美紀の食エッセイ)食べたら書きたくなって 第13回 100年前の美食をスクリーンで体験! 映画『ポトフ 美食家と料理人』

    (水谷美紀の食エッセイ)

    水谷美紀の食エッセイ〜食べたら書きたくなって〜
    第13回 100年前の美食をスクリーンで体験! 映画『ポトフ 美食家と料理人』のお話。

    (顧問 水谷美紀の食エッセイ)食べたら書きたくなって  第13回 100年前の美食をスクリーンで体験! 映画『ポトフ 美食家と料理人』
    冬に観る映画は、温かく幸せな気持ちになれるものがいい。食いしん坊の場合、それは「おいしそうな食べ物が登場する映画」と言い換えてもいいだろう。ジュリエット・ビノシュが腕のいい料理人を演じる新作映画『ポトフ 美食家と料理人』は、食と人生の素晴らしさを伝える美しい作品だ。

    監督はトラン・アン・ユン。彼の名を世に知らしめた『青いパパイヤの香り』(1993)では繊細な映像美が話題になったが、ベトナムの家庭料理を作る何気ないシーンも秀逸で、監督の食に対する情熱と愛情をこの時点で感じとった人も多かったはずだ。そんなユン監督が満を持してガストロノミー(美食)を題材にした映画を撮ったと聞けば、嫌でも期待は高まるだろう。結論から言うと、映画好きはもちろん、多くの美食家や料理のプロもきっと満足する出来栄えだ。

    舞台は1885年のフランス郊外。森の中の美しいシャトーに暮らす美食家ドダンは、自分が閃いたメニューを完璧に再現する料理人ウージニーと食を通して20年間、強い絆で結びついており、同時に彼女のことを心から愛している。だが自立した料理人であるウージニーは度重なるプロポーズを断り続け、彼を受け入れながらも夫婦になることは拒んでいる。

    ある日ユーラシア皇太子の晩餐会に招かれたドダンは、豪勢なばかりで魅力のない料理に幻滅し、自分たちの食事会に皇太子を招こうと思いつく。大いに悩んだ結果、シンプルだが食の真髄を伝えられるポトフで皇太子をもてなすことを決心するが、そんな矢先ウージニーが倒れてしまう。ドダンや周囲の心配をよそに、なんともないと言ってキッチンに立とうとするウージニー。だが病状は深刻で……。

    原作は『美食家ドダン・ブーファンの生涯と情熱』(マルセル・ルーフ著)。ドダンは稀代の美食家ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランをモデルにした人物であり、調理シーンがどれも自然光メインの環境のなかワンカットで撮影されている点が出色だ。さらに劇伴の音楽を使用せず実際の調理音だけを使ったことで、観客は料理から立ち上る湯気や香り、匂いまでリアルにイメージすることができる。この見事な再現性と臨場感が、凡百の料理映画とはひと味違う格調と幸福感をもたらしている。つまり本作はドダンとウージニー、そして料理が主役の映画なのだ。これらの料理はすべてミシュラン三つ星シェフであるピエール・ガニェールが監修をおこなっていると聞けば、さらに観たくなるだろう。ちなみにカメオ出演もしているのでお見逃しなく。

    撮影は実際のシャトーでおこなわれたが、広々とした古風なキッチンで腕をふるうウージニーを演じたジュリエット・ビノシュの姿は優美でいて力強く、料理人という役柄に見事な説得力をもたらしている。余談だが彼女は顔立ちに似合わぬがっしりした手の持ち主で、その意外な特徴に、女優としての骨太さを感じていたのだが、本作を観て多くの女性料理人の手と非常に似ていることに気が付いた。

    ドダン役には『ピアニスト』でカンヌ映画祭主演男優賞を受賞したブノワ・マジメル。雇い主の奢りを微塵も見せずウージニーに愛を捧げ続ける男を好演している。他にもドダンの美食友達であるファニーな4人組や、天才的な味覚をもつ少女ポーリーヌなど脇を固めるキャラクターも魅力的だ。ドダンのもとで美食家の道を歩き始めるポーリーヌの姿が、引き取られた家で一から料理を学ぶ『青いパパイヤの香り』の少女を彷彿とさせるのは偶然ではないだろう。

    ところで、この作品の舞台になっている19世紀末は、ちょうどガストロノミーの文化が一般にも定着した時代だが、その遥か昔からヴィンテージワインは愛飲されており、作中にも50年海底に沈んでいた1837年のクリュッグ クロ ダンボネのほか、シャンボール・ミュジニーやクロ・ド・ヴージョといったブルゴーニュワインの名酒など、ワイン好き垂涎の数々が登場する。

    1800年代のクロ・ド・ヴージョと聞いて、食いしん坊の映画好きなら一本の名画を思い出すだろう。本作と同じ1885年の物語である美食映画の金字塔『バベットの晩餐会』(1987)だ。デンマークの貧しい島に亡命し、老姉妹の女中になった謎の女性バベットが村人にフランス料理のフルコースをふるまうという映画史に残る名作だが、ここにもクロ・ド・ヴージョの1845年ヴィンテージが印象的に登場する。

    ユン監督が『バベットの晩餐会』を意識したかは不明だが、美食を単なる贅沢な消費ではなく幸福の象徴や心からのもてなしの形として描いていること、登場する男性がみな女性の生き方を尊重しながら愛を送り続ける紳士であること、そして食が生きる喜びや活力になることを伝えている点は共通している。

    調理シーンの見事さだけでなく、ドダンが語る愛情に対する信念や、食に関する箴言など心に残るセリフも多く、単なる「美しいグルメ映画」では終わらない。ふたりの愛の意外な結末と、清涼なデセールを思わせるラストシーンも含め、最初から最後まで心地よく味わえる作品だ。


    (作品情報)
    『ポトフ 美食家と料理人』
    監督:トラン・アン・ユン 脚本・脚色:トラン・アン・ユン
    出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル
    料理監修:ピエール・ガニェール
    配給:ギャガ
    原題:La Passion de Dodin Bouffant/2023/136 分/フランス/ビスタ/5.1ch デジタル/字幕 翻訳:古田由紀子
    公式 HP : https://gaga.ne.jp/pot-au-feu/ 公式 Twitter : @Pot_au_Feu_1215
    12 月 15 日(金) Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下 シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開


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