(美奈先生のレシピ小説)15話 梨沙の勝負まかない~カダイフ風サーモン
(美奈先生のレシピ小説)
美奈先生のレシピ小説15話!
読むだけでお料理上手な気分になれるかも〜♬
第12話で、まどかの彼氏、祐輔の姉として登場した、フードコーディネーターの梨沙が今回の主人公^^
次の撮影に使う前菜用のカクテルグラスを一心に磨いていた梨沙は、カメラマンの良平の声にはっと我に返り、慌ててカメラにかけ寄る。
良平がアングルを決めながら試し撮りしているうちに、チキンに添えられていたイタリアンパセリが、ライトの強い光で微かにしなってきていた。
今日は、夏がテーマの料理撮影である。
フリーのフードコーディネーターをしている梨沙は、某女性誌が季刊で発行している料理レシピのムックの中の「おうちでビストロページ」の料理とスタイリングを、担当している。
オシャレで手軽な旬料理のレシピと、家庭でもできる簡単なスタイリングのコツなどを紹介しているのだが、梨沙の独創性あるアイディアやちょっとした小物使いが評判よく、このコーナーは読者投票でも不動の人気とのことで、2年前からずっと梨沙の担当だ。
カメラマンも、シリーズがスタートしてから変わっていない。
感覚が似ていて、撮影も手際よい良平は、梨沙にとってテンポの合うとてもやりやすい相手で、編集部のスタッフにも「このコンビだと、撮影が早く終わる」と喜ばれていた。
「気づかなくてごめんなさい!」
タッパーを開いて、濡らしたキッチンペーパーに包まれたハーブの中から見栄えの良いものを急いで取り出して交換し、ついでに乾いてきたバターライスの表面に艶出しのアルコールを手早く吹き付ける梨沙に、良平は爽やかに笑う。
「お互い今はアシスタントがいないから、大変だよね。」
出版社の撮影スタジオは広めとはいえ、まだコロナ禍の昨今、密を避けてスタッフも最少人数におさえよう、という空気がある。
最初の頃は梨沙もアシスタント連れだったので、自分が料理を作って盛り付けている間に、アシスタントが次の食器のチェックや洗い物、クロスのアイロンがけをしたり、リースしてきた器を使い終わったものから梱包したり、と細々やってくれていたのだが、今はすべて一人なので、なかなかに忙しい。
立ち会うスタッフも、編集担当にデザイナーにコピーライター、食材提供のクライアントにと、わさわさ居たのが、今は編集部のページ責任者である美緒1人なので、スタジオはかなりゆったりしていた。
香盤表をちらっと見た美緒が、
「これ撮ったら、昼休憩にしましょう。お腹すいたでしょ?」
と、笑顔で二人に呼びかけ、緊張していた空気がふと緩む。
時計を見るとすでに14時を回っている。
以前は、撮影し終わったものを温め直し、試食を兼ねたランチにしていたが、コロナ以降は衛生面の観点からそれもなくなり、近くのカフェでお昼を食べることが多い。
スマホをチェックしながら、
「私ちょっと1回デスクに戻らなくちゃいけないから、二人でご飯食べてきてくれる?領収書もらっておいて。1時間後に撮影再開ね。」
と、慌ただしくスタジオを出ていく美緒の、スタイルいい後ろ姿を見送って、二人はなんとなく顔を見合わせる。
「さて、行きますか。そろそろいつもの店も飽きたけど、この辺、ラストオーダー遅い店が他にないんだよな」
「二人なら、残ってる食材で私なんか作りましょうか?撮影で余った材料は、帰りに持って帰ってって、毎回美緒さんに言われるから」
梨沙が言うと良平がぱっと顔を輝かせて
「それは嬉しいなあ!お店より梨沙ちゃんのごはんの方がうまいもんな!」
梨沙は赤くなって
「そんなこともないけど。じゃ、一応美緒さんに了解もらってから、ちゃちゃっと作っちゃいますね!」
社のスタジオで余った食材を使って料理をしてよいか、美緒にlineで確認をとると、梨沙は早速冷蔵庫をあける。
気になっている良平に、個人的に料理を作ることに、内心はドキドキしている。 嬉しいチャンスでもあるのだが、仕事柄相当なグルメの良平に、自分の即席料理が気に入ってもらえるか、ちょっぴり心配でもあった。
撮影では、仕上がりによって作り直すこともあるため、多めに食材を仕入れているので、午前中に撮ったメニューの未使用の食材だけでも、結構ある。
チルドの奥に予備で買っておいた小さめのサーモン2切れを見つけ、これをメインにしようと瞬時に決めた。
夏号なので、そうめんもある。
そうだ、このサーモンをカダイフ風に、そうめん巻きつけて揚げたら、ボリュームもアップするし、オシャレだわ。
ガスパチョの残りにケチャップと生クリームを足して温めれば、美味しく爽やかなトマトソースになる。
スープは柔らかすぎてサラダに使えなかったアボカドとブルーチーズと豆乳をバーミックスであわせて、まろやかな冷製スープにすればよい。
火を使わないから、あっという間に仕上がる。
サラダは、、、ソーセージの付け合わせに使ったザワークラウトに、新玉ねぎとオリーブオイル、香り良いハーブミックス。そして、塩気と酸味の緩和に、はちみつをちょっぴり合わせよう。
瓶詰のザワークラウトはかなり味が濃いめだったので、これで味のバランスが調うにちがいない。
てきぱきと20分程で完成させて、イメージカットに使ったくるみのバゲットを添えると、テーブルは華やかなランチシーンとなった。
「すげえ!あっという間に映えるコース料理だ!梨沙ちゃん、やるね!」
「適当な賄いなんで、美味しいかどうかわからないですよ。あったかいうちにどうぞ。」
はにかんですすめるが、味の自信はある。
「うまい!このソース、ガスパチョのアレンジ?流石だよ。
アボカドにブルーチーズのアクセントも、味が引き締まっていいねぇ。
仕事中じゃなかったら、ワイン開けたいところだね。」
舌鼓を打ちながら美味しそうにたいらげる良平を見て、梨沙はほっとする。
「ほんとに美味しかったよ、ごちそうさま。梨沙ちゃんの彼氏は幸せだね!」
「私、彼氏いないですよ!良平さんこそ、お料理上手な彼女がいそう」
淡い期待をしつつ、勇気を出して探りをいれると、
「それがさ、彼女全く料理しないんだよ。」
と、あっけらかんと笑いながら、答えるではないか。
・・・うわー。やっぱり彼女いるんだ!
一気に力が抜けたが、失望感が顔に出ないように必死で気を付けながら、
「結婚は…しないんですか?」
「え?」
怪訝そうな良平に
「あ、ごめんなさい!立ち入ったこと聞いちゃって」
と慌てて謝ると、
「いや。あれ?言わなかったっけ、俺バツイチなんだよ。
結婚はいまだにする気になれなくてね。
ま、そういう話は、今度みんなで酒飲みながら、ね。」
と、苦笑いしている。
みんなで、か…
そして、結婚は当分いい、と。
いや、それ以前に彼女いるって、私の出る幕ないじゃない…
「そうですね…」
梨沙はがっくりと肩を落としながら、後片付けを始める。
「ただいま~!遅くなりました。
あら、いい匂い~。私も梨沙ちゃんの料理が食べたかったわ~!
あ、昨日お取り寄せスイーツ特集で撮影した、ルタオのドゥーブルフロマージュ、3人分もらってきたから、後でおやつにしようね!」
にこにこしながらスタジオに入ってきた美緒に、梨沙もほっとして、笑顔を返す。
「わ~嬉しい。あそこのチーズケーキ大好き!おやつ楽しみに頑張ります!」
次のセッティングに集中している良平をちらっと見ながら、カラ元気を絞り出して明るく答え、
うじうじするの、おしまい!
気持ちを切り替えて、後半の撮影も頑張らなきゃ。
ドゥーブルフロマージュ、ドゥーブルフロマージュ!
エプロンの紐をキリっと結び直し、キッチンに急ぎ足で向かう梨沙なのだった。
●サーモンのカダイフ風 ガスパチョソース
《材料・2人分》
サーモン2切れ、手延べそうめん1/2束、ガスパチョ・揚げ油適宜
《作り方》
① 手延べそうめんの端を輪ゴムで縛り、30秒湯掻く。冷水で締めて水気を切り、縛った部分はハサミでカット。
② 湯掻いたそうめんを広げておき、サーモンに塩・コショーをして小麦粉をまぶしたものを巻く。(バラけそうでも火が入るとまとまるので大丈夫。)
③ フライパンに多めの油を熱し、強火で、表面が小金色になるまで揚げる。
④ ガスパチョを温め、添える。
●完熟トマトのガスパチョ
《材料・2人分》
トマト300g、赤パプリカ1/4個、セロリ1/4本、たまねぎ1/16、バゲット(白い部分)1切れ、にんにく1片、水50ml、オリーブオイル大さじ1、赤ワインビネガー小さじ1、パプリカパウダー・こしょう・タバスコ各少々
《作り方》
野菜は細かく切って、全ての材料を合わせて攪拌する。
※サーモンのソースにする場合は、ガスパチョ100ccにケチャップと生クリームを各大さじ1ずつ加え、塩胡椒少々を足す。
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