(美奈先生のレシピ小説)第8話 玉ねぎと恋とかけてその心は?…じっくり温めると甘くなる♡
(美奈先生のレシピ小説)
美奈先生のレシピ小説8話!!!読むだけでお料理上手な気分になれるかも〜♬
会社近くの駅で耕太と待ち合わせしていた美菜子は、仲良しの先輩であるまどかを彼氏である耕太に紹介したくなり、仕事終わりにまどかを誘って駅まで一緒に帰ってきたのだ。
3人で軽く立ち話をしてから、まどかは改札へ、2人はタクシー乗り場へと別れたのだが、タクシーに乗るや否や美奈子は、自慢のまどかについて得意げに話しだす。
「しゃべらないでじっとしてたらクールビューティーなのに、気さくで天然なのよね。でも仕事はすごくできるのよ。お料理もプロ並に上手でね。ずっと耕太に紹介したかった、私の大好きな先輩。」
耕太も大きく相槌を打つ。
「うん。美菜子から聞いてた通りだよ。なんていうのか、美人なのに自然体で、女のいやらしさがないっていうか、素敵な女性だよね。」
「独特の空気感あって、魅力的だよ。」
「サバサバしてるのに気遣いはできて、あれじゃ男がほっとかないだろうな!」
最初は嬉しげにうんうんと頷いていた美菜子だったが、だんだんと複雑な表情になっていく。
あれ?もしかして、私にはちょっと女のいやらしさがあるって思ってる?
耕太もやっぱり、まどか先輩みたいな人が好きなのかな…
ていうか、いくら素敵でも、彼女の前で他の女性のこと、そこまで手放しに褒める?! デリカシーないんだから…!
「あ!今日のごはん、俺から先輩を誘った方がよかった?せっかく連れてきてくれたのに、立ち話だけで別れて悪かったかな?気が利かなくてごめんな。」
徐々に沈んでいく美菜子に、耕太は見当違いな心配までする。
耕太にしてみたら、実際美人だとは思ったが、彼女の大事な先輩という認識以上のものはない。 まどかを褒めることで、姉のように慕っている美菜子が喜ぶだろうと思って、積極的に同調しているところもあった。
「…耕太、まどか先輩と飲みたかった?」
小さな声で聞く美菜子に
「…やっぱり誘えばよかったよな。まどか先輩って、酒強いんだろ?どのくらい飲めるか、勝負したかったな。(笑)」
微妙な女心に気付かず、屈託なく笑う耕太に、心の中はどんどん曇っていく。
「…ごめん。私、今日は帰る。」
「え?どうしたの、急に?!タクシーに酔った?気分でも悪くなったの?!」
「ええ、とってもね。」
家まで送る、という耕太をふりきって最寄りの地下鉄の出口でむりやり降りた美菜子は、降りた先から後悔していた。
あ~私のばかばかばか!!
自分から紹介しといて、ヤキモチ焼いてキレるなんて、最低だ。
耕太に悪気ないのはわかっているのに、ついイラッとしてあんな風に別れちゃった。
せっかく2週間ぶりのデートだったのに…!
泣きたくなる気持ちをおさえて家に帰った美菜子は、空腹なことに気づく。
…きっと、お腹すいてたからイライラしてたんだわ。
今日はいつものビストロに行く予定だったのに。
耕太もまさか1人では行かないだろうし、悪いことした…
だけど、久しぶりのデートに、耕太からまどかへの称賛の言葉を聞きながら、二人で食事をする気にはなれなかったのだ。
後悔と自己嫌悪で涙ぐみながらも、食欲はちゃんとある自分がおかしい。
よし。気持ちを切り替えて美味しいごはん、作って食べよう。
そして元気がでたら、耕太に謝ろう!
と言っても、買い物してこなかったから、お肉もお魚もないし、野菜も玉ねぎくらいしかない。
そうだ!ちょうどロゼが冷えてるし、ピサラディエールにしよう。
玉ねぎたっぷりの南仏風ピッツア。これなら家にある食材で作れるわ。
冷蔵庫にあったプロヴァンスのロゼが目に入ってふと思い立ち、得意の南仏風のピッツアを作ろうと決めた。
メニューを考えている時、作っている時は無心になれるから、モヤモヤした時に料理は最高の気分転換だ。
生地は、薄いパリパリタイプなので、油と水と塩を入れて混ぜて丸く伸ばすだけ。こねたり寝かせたりする必要もない。
オリーブオイルではなく、グレープシードオイルを使うのが、ぱりぱりでも堅くなりすぎない、美味しい生地にするポイントだが、グレープシードオイルも常備されている。
具材も、玉ねぎ、にんにく。そして瓶詰めのケッパー、オリーブ、アンチョビ、と家にあるものだけで充分である。
のばした生地に炒めたガルニチュール(具)をのせ、オーブンで10分も焼けば出来上がり。
主役は、よ~く炒めた甘い玉ねぎだ。アンチョビの塩気やケッパーの酸味、オリーブの風味が実によくマッチして、きんきんに冷えたロゼに抜群にあう。
週末に耕太がくるためにと冷やしておいたものだが、開けてしまおう。一人では飲みきれないが、残りは料理に使えばいい。
美味しいワインを1,2杯飲んだら、気持ちも晴れるにちがいない。
ピッツアをオーブンに入れ、ふとバッグの底からスマホを取り出すと、何度も耕太から着信とラインが入っている。
あ、しまった!作るのに夢中になっちゃって、チェックしてなかったわ。
「美菜子、大丈夫?」
「少しは気分よくなった?」
「なんか食べたか?」
「おーい、美菜子?!まさかぶっ倒れてんじゃないだろうな?!」
「一体どうした?!心配だよ!!これからそっち行くから!!」
え~?!そんな!突然きちゃうの?!
びっくりして立ちあがったと同時に、ピンポンがなる。
覗き穴から耕太を確認した美菜子は、そっとドアを開ける。
「なんで電話でないし、ラインも見てないんだよ!心配するだろ!」
美菜子の顔を見てほっとした表情の耕太は、存在を確かめるように優しく抱きよせる。
「…うん、心配かけてごめんね」
申し訳なさそうに答える美菜子に、
「何もなけりゃ、いいんだよ」
と、笑いながら答えてから、ふと顔をあげると
「お腹すかしてるかもと思って、適当に食うもん買ってきちゃったけど、なんかいい匂いしてるな!」
と、にやりとする。
「今ピザ焼いてるところだったのよ。耕太ってタイミングいいんだから」
はにかみながら笑って、美菜子は台所に戻る。
ちょうど焼き上がった美菜子のピッツアに、耕太が途中で買ってきたまだ温かいフライドチキンにポテト、というややジャンキーなディナーも、良く冷えたロゼと一緒に二人で食べれば、ご馳走だ。
「この生地、手作りだろ?こんな短い時間で自家製ピザ作るなんて、相変わらず美菜子はすげえなあ。パリパリしててうまい!ロゼに合うんだな。」
「ロゼに合わせて作ったんだもん」
「こいつ、1人で飲むつもりだったな!」
食事の後、ソファーに移動して満足げに伸びをした耕太は、
「美菜子、片付けは後で俺がやるから、こっちおいで」
と美菜子を呼び、肩に両手をのせて、少し赤くなっている美菜子の目をのぞきこむ。
「俺さ。美菜子しか見えてないからな。それだけは覚えておいて。
俺が好きなのは、泣きべそかきながらこんな美味しい料理作っちゃう、こういう子。」
美菜子のおでこをこつんと指でつついて、照れくさそうに笑う。
…わかってくれてたんだ…
嬉しいのと、恥ずかしいので、美菜子は顔を見られないように、慌てて耕太の胸に頬をうずめる。 心地よさにじっとしていると、微かにセミの鳴き声が聞こえてきた。
「付き合い始めてもうすぐ1年たつんだな…」
と、耕太の優しい声も追いかけてくる。
夏の夜のキスは、ほんのり甘い玉ねぎの香りがした。
ピサラディエール(玉ねぎとオリーブの南仏風ピッツア)
《材料・1枚分》生地{グレープシード油大さじ2、水40cc程度、薄力粉100g、塩少々}、ガルニチュール(具材){玉ねぎ(薄切り)中1個、にんにく1片分(みじん切り)、ケッパー粗みじん大さじ1/2、オリーブ油大さじ1/2、塩・コショウ・エルブドプロヴァンス各少々}、オリーブ2、3個(輪切り)、アンチョビ6尾、EXオリーブ油・赤唐辛子の輪切り・バジルの葉各適宜
《作り方》
① ガルニチュール(具材)を作る。玉ねぎは耐熱容器に入れて600wで3分加熱し、水分をしっかり切る。
② フライパンにオリーブオイルを温め、①の玉ねぎを茶色くなるまで10分程炒める。飴色になったらケッパーとニンニクも加えて炒め、塩・コショウ・エルブドプロヴァンスをふって冷ましておく。
③ 薄力粉をボウルに入れ、油、水、塩を入れて手で混ぜる。(こねなくてよい。寝かせる必要もない。)
④ 天板にクッキングペーパーを敷き、③の生地を丸めて置き、手で丸く伸ばす。(めん棒を使ってもよい)
⑤ ④の生地に、粗熱をとった②の具材をのせ、放射線状にアンチョビをのせ、オリーブの輪切りをのせ、EXオリーブ油を回しかける。
⑥ 250度に温めたオーブンで10~15分ほど焼き、仕上げに赤唐辛子の輪切りとバジルをのせる。
澤田美奈講師のお料理教室 美奈のおしゃデリ・クッキング
詳細はこちら
澤田美奈講師のインスタグラム
詳細はこちら
澤田美奈講師のフェイスブック
詳細はこちら
澤田美奈講師のホームページ
詳細はこちら